教科書ネットの共同アピールをご紹介します。
こんな教科書をこどもたちに渡してはいけません。
各地で行われている教科書見本本展示会場でアンケートを書きましょう。
http://www.ne.jp/asahi/kyokasho/net21/appeal20150611.htm
【共同アピール】
歴史を歪め戦争を美化して「戦争する国づくり」へ子どもたちを導く憲法敵視の教科書の採択を許さない世論と運動を大きく発展させよう
1.文部科学省は、2015年4月6日、14年度中学校教科書の検定結果を公開しました。この教科書は、2008年3月に改訂告示された学習指導要領にもとづく教科書の2回目の検定です。今回の検定は、2014年1月に政府見解に基づいて書くなど3点にわたって改悪された検定基準、同年3月に改悪された検定審査要項(検定審議会内規)にもとづいて行われました。この制度改悪が、今回の申請図書や検定結果にも大きな影響をもたらしています。
そのなかで、かねてから私たちが戦争美化などの点で批判してきた育鵬社版歴史・公民教科書、ならびに自由社版歴史教科書が検定に合格しました。今回、検定提出しなかった自由社版公民も旧版のまま採択に参入することになっています。
2.育鵬社版・自由社版の歴史教科書は、これまで通り、敗戦前までの国定教科書と同様に、神話上の人物で実在しない神武天皇を初代天皇であるかのように書き、歴史事実をゆがめています。また、各時代にわたって、天皇と支配者中心の歴史を描き、さらに現代史では昭和天皇を賛美する特設ページをもうけるなど、日本国憲法の精神に反して天皇を日本の支配者として敬う考え方を子どもに押しつけようとしています。
3.育鵬社版・自由社版は、これまで以上に、近代日本が行った侵略戦争と植民地支配を美化し、加害をなかったことにし戦争に対する否定的な心情を払しょくして「戦争する国づくり」へ子どもたちを誘導しようとしています。
日露戦争は日本の朝鮮支配を確立するための戦争であり、実際5年後には韓国併合にいたったにもかかわらず、ロシアのアジア進出を「わが国の存立の危機」(育鵬)、ロシアの軍事力が「日本が太刀打ちできないほど増強されるのは明らかだ」(自由)と事実にも反して危機を強調し、自衛のための戦争と正当化します。さらにコラムなどで国民全体が戦争に協力した姿を教えます。一方、他社で必ずとりあげている当時の反戦論や重税反対の動きはまったくとりあげません。
韓国併合後、朝鮮で土地を追われた農民が多数出たことは、2006年版までは両社とも本文に書いていましたが、育鵬社は全部削り、その上、併合後、朝鮮の人口・耕地面積・米生産量・学校数などが増えたことを示す表を、なぜそうなったかの説明なしに入れています。自由社も、鉄道・灌漑施設などの開発や「学校も開設し、日本語教育とともに、ハングル文字を導入した教育を行った」など善政を強調しています。韓国併合により朝鮮に与えた被害など反省すべき点を書いている他社教科書とは大きく違います。
満州事変と日中戦争に関しては、「満州国」での工業の発展と人口増加を強調して日本の満州支配を美化し、そのうえ日本の満蒙開拓団入植も全く無批判に書いています(育鵬)。自由社版はついに南京事件の記述をまったく削除しました。
自由社版の現行本では、側注で南京事件を書いていましたがこれを削除し、南京事件の記述を一切無くしました。逆に通州事件の側注を2倍にまで詳しくしました。文科省はこれについて検定意見をつけていません。戦後70年の今年、南京事件を削除したのは「南京事件はでっち上げ」という彼らの主張を露骨に表現したものですが、それは近隣諸国条項に違反するものであり、文科省の責任は重大です。
アジア太平洋戦争については、当時の日本政府の主張そのままに、アジア諸国を欧米の植民地から解放するための戦争だったと教えることに力をそそいでいます。戦争初期の「日本軍の勝利に、東南アジアやインドの人々は独立への希望を強くいだきました」と書き、インド国民軍、ビルマ独立義勇軍、インドネシア義勇軍などが日本軍に協力して戦ったことを強調します(育鵬)。また、「アジアの人々を奮い立たせた日本の行動」「日本を解放軍としてむかえたインドネシアの人々」というコラムをのせています(自由)。これらは日本の行った戦争の本質を誤解させるものです。他社にはこのような記述はなく、アジア諸国民に与えた苦しみをとりあげています。さらにこの戦争の名称についても、アジア解放の戦争という意味をこめて当時の日本政府がつけた名前を使い「大東亜戦争(太平洋戦争)」(自由)、「太平洋戦争(大東亜戦争)」(育鵬)をタイトルに使っています。
他社では日本の兵士や国民が支配者によって正義の戦争と信じこまされていたことを書いていますが、育鵬社・自由社は、国民がだまされていたことは書かずに、国民が積極的に国家・戦争に協力してがんばったことだけを強調しています。
沖縄戦について育鵬社は「集団自決に追いこまれた人々もいました」とは書いていますが、他社のように「日本軍によって」という言葉はなく、日本軍による住民虐殺にはまったくふれていません。自由社は「集団自決」の記述は今回全面削除しました。もちろん住民虐殺の記述はありません。さらに「日本軍はよく戦い、沖縄住民もよく協力した」との記述を付け加え、沖縄戦を戦争の悲劇としてではなく住民の戦争協力の姿として描き出し、戦争を最大限美化しています。
4.両社とも明治憲法の問題点にはふれず、「アジアで初めての本格的な近代憲法として内外ともに高く評価されました」(育鵬)と称賛し、自由社版も明治憲法について「憲法を称賛した内外の声」をくわしく紹介する一方、日本国憲法はアメリカから押しつけられたことを強調し、その積極的意義や国民が憲法を支持したことにはふれません。他社の扱いとは正反対です。
5.公民教科書における憲法の扱いは他社とは大きく異なって、国家に役立つ人材をつくるのが公民教育の目的だとして、国民一人ひとりよりも国家を優先し、日本国憲法の精神を根本的に歪めている点で重大です。
国民主権の扱いが他社と大きく異なるのは、「国民主権と天皇」(育鵬)、「天皇の役割と国民主権」(自由)のように天皇とセットで扱っていることです。両社ともその内容は国民主権の説明が三分の一、天皇の説明が二分の一です。さらに現在の天皇制を「現代の立憲君主制のモデル」(育鵬)と持ち上げています。
基本的人権を学ぶ項目でも、両社とも人権保障について三分の一、人権の制限と国民の義務にそれより多い三分の二をあてています。しかも人権の制限の原理として憲法に規定されている「公共の福祉」を説明するときに、他社のように他人の人権を侵すことになる場合に人権が制限されるとするのではなく、国家・社会の秩序を守るために人権が制限されると書き、歯止めのない人権の制限を容認しています。
両性の平等の問題でも、現実にある男女差別の実態にはふれず、男女共同参画条例についても専業主婦の役割を軽視しているなど否定的な見解をわざわざとりあげています。男らしさ・女らしさを大切にすることや家族の重要性を一面的に強調していることも他社との違いです。
さらに、他社では数行をあてているに過ぎない「憲法改正」について2ページの独立の項を立て、各国の憲法改正の回数の一覧表まで掲げ、改憲が必要という政治的主張を打ち出しています。
6.育鵬社版公民教科書の憲法の平和主義の扱いも、全体として安倍政権の防衛・軍事政策をそのまま宣伝しているような教科書となっている点で重大な問題があります。「平和主義」の項でも平和主義そのものは4分の1、あとの4分の3は自衛隊についての説明にあてています。そして世界各国では国防の義務を課している憲法をもつ国もあるとの資料を掲げ、国防の義務を国民に課すのが当然のように書いています。その次に「平和主義と防衛」の項を設け、「国防という自衛隊本来の任務をじゅうぶんに果たすためには、現在の法律では有効な対応がむずかしい」という議論をあえて紹介しています。「沖縄と基地」というコラムでは、政府は負担軽減を行っているとして「普天間飛行場の辺野古への移設などを進めています」と書いています。また「世界平和の実現にむけて」の項では、自衛隊が「積極的に海外で活動できるよう法律を整備することが議論されています」と書き、「憲法改正」の項でも「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生した場合に、日本が必要最小限の範囲で実力を行使することは、憲法上許される」と、集団的自衛権行使を容認しています。そして日米安保体制のもと軍事力で国を守る必要性を強調しています。まさに「戦争する国づくり」のための教科書といえます。
他社のように憲法9条の歴史的意義や、最近の国際紛争解決のための平和的・外交的努力を紹介し、9条を生かし平和をどうつくるかを考えさせるような内容はまったくなく、武力による解決しかないような印象を与えるもので、日本国憲法の精神に反するものです。
原子力発電についても、エネルギー問題の解決には核融合発電が必要だとして、それを推進する姿勢を変えていません。
7.育鵬社版公民教科書には、安倍首相の写真が15枚(平均すると14ページに1枚)も載っています。この教科書の内容は政府の「広報誌」といえますが、さらに、安倍政権の「宣伝パンフレット」だといっても過言ではありません。こんなものを「教科書」として子どもたちに渡すことは許されません。
8.このような日本国憲法の精神に反する教科書で子どもたちが学ぶことは、あってはならないことです。しかもこれらの教科書については、国連・子どもの権利委員会などからも、「歴史的事実に関して日本政府による解釈のみを反映しているため、アジア・太平洋地域の国々の子どもの相互理解を促進していない」などの懸念が繰り返し表明されています。
にもかかわらず、育鵬社版教科書をつくった日本教育再生機構・「教科書改善の会」は、「理想の教科書が誕生した」「あなたのまちにも育鵬社教科書を」「『日本がもっと好きになる教科書』を全国の子供達に届けよう」と採択活動を展開しています。そして、政権党やそれにつらなる日本会議などの政治団体が、議員などの政治的影響力を駆使して教科書採択に介入し、育鵬社版・自由社版教科書の採択を推進しようとする動きが顕著にみられます。
安倍政権によって2014年6月に改悪された地方教育行政法によって、首長が教育に介入しやすくなりました。しかし、教科書採択については首長が介入できないことを文科省・小松初等中等教育局長が国会答弁で明確にしています。
こうした教育への政治的介入を排除し、各地域の住民・保護者・教育関係者が、日本国憲法の精神に立脚した教科書が採択されるよう求める声を大きくあげることをよびかけます。今、安倍政権の「戦争する国」、憲法改悪へ向けた暴走が異常に強まり、それに反対する大きな共同の運動が発展しています。教科書採択問題はこれらの課題と一体のものであり、安倍政権の暴走を止める課題と育鵬社・自由社版教科書採択阻止は共通の課題です。全国的な運動と連携・共同して、地域から大きな運動を発展させましょう。
そして各地の教育委員会や学校設置者が、その声に応えて理性的判断にもとづいて教科書を採択することをよびかけます。
2015年6月2日
(団体名)
アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)、アジア女性資料センター、あぶない教科書を許さない八王子の会、安倍教育政策NO・平和と人権の教育を!ネットワーク、「慰安婦」問題解決オール連帯ネットワーク、生かそう1947教育基本法!子どもと教育を守る東京連絡会、いせはら教育を考える会、岩国の教育を考える会、ABC企画委員会、えひめ教科書裁判を支える会、沖縄平和ネットワーク関西の会、沖縄平和ネットワーク首都圏の会、沖縄戦の史実歪曲を許さず沖縄の真実を広める首都圏の会、過去と現在を考えるネットワーク北海道、学校に自由の風を!ネットワーク、教育と自治・埼玉ネットワーク、教科書・市民フォーラム、教科書を考える尾道市民の会、教科書を考える呉の会~未来への架け橋~、教科書問題を考える港北の会、教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま、強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク、憲法改悪阻止各界連絡会議、「憲法」を愛する女性ネット、憲法を生かす会、公正な教科書採択を求める大田区民の会、神戸国際キリスト教会、子どもたちに「戦争を肯定する教科書」を渡さない市民の会(愛知)、子どもと教科書・旭区民ネットワーク、子どもと教科書大阪ネット21、子どもと教科書全国ネット21、子どもと教科書を考える八重山地区住民の会、子どもの権利・教育・文化全国センター、子どもの人権埼玉ネット、子どもを戦争にみちびく教科書はいらない!広島県民集会実行委員会、在韓軍人軍属裁判を支援する会、さいたま教育文化研究所、相模原の教育を考える市民の会、島根県教職員組合益田支部・鹿足支部、自由法曹団、新日本婦人の会中央本部、新日本婦人の会八王子支部、杉並の教育を考えるみんなの会、「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンター(VAWW RAC)、戦争被害調査会法を実現する市民会議、「戦争を肯定する教科書」を子どもたちに渡さない市民の会(愛知・海部津島)、全国印刷出版産業労働組合総連合会、全国民主主義教育研究会、高槻ジェンダー研究ネットワーク、男女平等をすすめる教育全国ネットワーク、朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動、「つくる会」教科書採択を阻止する東京ネットワーク、東京・教育の自由裁判をすすめる会、東京の教育を考える校長・教頭(副校長)経験者の会、東京歴史科学研究会、中野の教育を考える草の根の会、南京への道・史実を守る会、日韓つながり直しキャンペーン2015、西区教科書を考える会(横浜市)、2015年「戦争を肯定する教科書」の採択を許さない愛知県実行委員会、日中韓共同歴史編纂委員会、日本軍「慰安婦」問題解決全国行動、日本山妙法寺、日本ジャーナリスト会議(JCJ)、日本ジャーナリスト会議・東海、日本出版労働組合連合会、日本製鉄元徴用工裁判を支援する会、日本の戦争責任資料センター、日本婦人団体連合会、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、日本民主法律家協会、ノー!ハプサ、ピースボート、東大阪で教育を考える会、日の丸・君が代」不当処分撤回を求める被処分者の会、ふぇみん婦人民主クラブ、婦人民主クラブ、フォーラム・平和・人権・環境、平和・国際教育研究会、平和と教育を考える都筑区民の会、平和を実現するキリスト者ネット、平和力フォーラム、平和をつくり出す宗教者ネット、みんなの教育・ふじさわネット、武蔵村山子どもと教育を育てる会、ユーゴネット、許すな!憲法改悪・市民連絡会、横浜教科書採択連絡会、歴史科学協議会、歴史学研究会、歴史教育者協議会、「歴史認識と東アジアの平和」フォーラム日本実行委員会、歴史をたずねる会@杉並
韓国・アジアの平和と歴史教育連帯
(2015.6.10現在 94団体)
問合せ・連絡先:子どもと教科書全国ネット21
千代田区飯田橋2-6-1 小宮山ビル201
℡:03-3265-7606 Fax:03-3239-8590
Source: 東京法律事務所憲法9条の会